【岩手日日新聞社説掲載】
<岩手日日新聞社説より 令和2年3月17日朝刊>
一関市藤沢町保呂羽で開かれた長徳寺蘇民祭に出掛けた。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って催事の自粛が相次ぐ中、主催する同祭保存協力会が議論を重ね、恒例と一なっている精進料理での会食などを取りやめ、規模縮小による開催に踏み切った。
そもそも蘇民祭は疫病退散を願って始まったというのだから、伝統を重んじて継承してきた関係者にとっては、新型コロナウイルスだからこそ決一行したいという思いが強かったともいえる。
春まだ浅く川は刺すような冷たさだったが、下帯姿の男らが気迫をみなぎらせて清め水を浴びるのを見て「昔はPCR検査のような調べるすべもなく、
水垢離は感染者の選別を兼ねていたのかもしれない」といつになく考えたというのも、その後の蘇民袋争奪戦では濃厚接触どころでない激しい肉弾戦が繰り広げられたからだ。
体調不良のまま3度も繰り返される水垢離を耐えることはできないだろう。いにしえに疫病退散を願った人々に確かめることもできず、勝手に考えを巡らせた治療法もワクチンもなく、
いまだ終息が見えないのは蘇民祭が始まった当時と同じような状況だろう。 しかし、現代の衛生観念は格段に向上しているはず。
今は「かからない」「うつさない」ための予防策を徹底し闘うのみだ。