岩手県一関市、時宗 不退山 長徳寺

0191-63-3988

〒029-3521
岩手県一関市藤沢町保呂羽字宇和田18

【台湾の臨床仏教(中)】在宅訪問の記事が産経新聞に掲載されました

「在宅」に僧侶派遣、押しつけず寄り添う
台北市内の自宅で、日本の臨床宗教師の僧侶や大悲学苑のボランティアらと会うがん患者の葉斯旺さん(左から2人目)。台湾大付属病院の看護師や常駐僧侶が独立開業した大悲学苑は、患者の自宅や老人ホームに僧侶を派遣して精神的なケアに当たっており、いわば訪問看護ステーションの僧侶版としての役割を果たしている=2018年1月(小野木康雄撮影)

台北市中心部の台湾大付属病院から東へ約1キロ。オフィスビルの立ち並ぶ大通り沿いに、がん患者を精神的に支える専門僧侶「臨床仏教宗教師」の拠点がある。「大悲学苑(だいひがくえん)」。患者の自宅や老人ホームに僧侶を派遣する、いわば訪問看護ステーションの僧侶版だ。
台大病院から独立開業
自宅で最期を迎えようと退院していった患者や家族に継続して寄り添いたいと考え、台大病院の緩和ケア病棟に常駐する専門僧侶や看護師らが2013年に独立開業。17年までに患者209人を受け持った。
日本から訪れた医療・宗教関係者ら10人の視察団は、台湾の仏教緩和ケアならではの取り組みとして注目した。自宅など住み慣れた場所で人生を全うしてもらう「地域包括ケアシステム」の構築を掲げる日本でも、「多死社会」の到来を控えて今後は在宅でのみとりが増えると見込まれる。死が間近に迫った人々や家族の苦悩と悲嘆を、地域でどう受け止めるかは日台共通の課題だ。
仏教徒以外の患者もケア
がん患者の葉斯旺(よう・しおう)さん(93)は、台北市内にある閑静な高級マンションの4階に住んでいた。在宅で療養し、積極的な治療を受けていない。家族の前では何事もないように振る舞っているが、内心は悲しんでいる-と、大悲学苑のケアチームは分析していた。
葉さんは僧侶そのものを嫌っていた。自分の意に反して四女が出家したからだという。それまでチームはボランティアだけを派遣してきたのだが、遠路日本からの見舞客なら僧侶でも歓迎されるだろうと、臨床宗教師の大下大圓(だいえん)さん(64)と渋谷真之さん(42)に訪問を頼んだ。
通訳を交えながら昔話や雑談をするうち、葉さんは先立たれた妻の話を始めた。大下さんが「あの世に行ったら、奥さんに会えると思いますか?」と尋ねると、葉さんは言った。
「会えないでしょうね。人は亡くなると無になる。私はどんな宗教も、神も鬼も信じていません」
渋谷さんが「死ぬのは怖くないですか?」と問いかけても、葉さんは「ノー」と即答した。
訓練されたボランティアを活用
大下さんと渋谷さんはその後、大悲学苑の臨床仏教宗教師で尼僧の宗惇(そうじゅん)法師(54)からアドバイスを求められた。
宗惇法師が「葉さんは表向き穏やかだが、容体が悪くなると辛さが出てくるのではないか」と不安を口にすると、大下さんは「自然のままで死を迎えるという覚悟が、揺らぐかどうかでしょうね」と応じた。
渋谷さんは「私たちが初対面でもお話を聞けたのは、ボランティアのみなさんが信頼関係を築いているから。普段のケアがすばらしいのだと思いますよ」と励ました。
大悲学苑のボランティアは、傾聴や仏教学に関する1年間の研修を受けてから現場に出る。これまでに約60人が養成され、僧侶の支えでみとりを経験した遺族が恩返しとして志願したケースも多いという。
訓練されたボランティアがチームの一員となることで、仏教精神を生かしつつも仏教を押しつけないケアが可能になる。それは、日本の臨床宗教師が相手の価値観を尊重したケアに徹する姿勢と共通している。
約半年が過ぎ、葉さんは体調が悪化したが、僧侶が訪ねることを許さなかった。「心境の変化があるかもしれないので、私たちは機会を待っています」。宗惇法師はケアをボランティアに任せ、裏方に徹していることを明かした。
(小野木康雄)

産経新聞より抜粋2018.8.21

About chotokuji

コメントを残す